北風ブログー740
2023/3/24更新
食欲−3
ここで、少し食欲に関するホルモンの話をします。食欲と言っても「焼き肉のホルモン」とは意味が違います。医学で言うホルモンとは、いろいろな臓器や組織から細胞外に分泌されて、そこから血液などの流れに沿って、標的臓器に行きつきそこの受容体に働きかけ、その標的臓器の機能を変化させるものです。「焼き肉のホルモン」のホルモンは「放物(ほるもの→ほるもん)、お肉以外の場所で通常は食べずに捨てるもの」という大阪弁から来ております。
「ホルモン」という概念、実はむつかしいのです。わかりやすくパチンコで例えます。パチンコ店に出入りしたことのない方も、夜店や縁日でパチンコを見たことがあるのではないでしょうか? そのパチンコで言えば、ホルモンはパチンコの玉に例えることができます。パチンコ台の右端(いろいろな臓器)からパチンコの玉(ホルモン)が打ち出されます。これは、ホルモンというたんぱく質やアミノ酸が細胞の中で作られて、細胞の外に放出されることです。それが、チューリップといわれる標的(標的臓器)に入ると「あたり」で、球がたくさん出てきます。先ほどの食欲を制御する「レプチン」で言えば、「脂肪組織」から出てきた「パチンコの玉」である「レプチン」が、血液に乗って「チューリップ」に相当する脳の「視床下部」に作用して、食欲を抑えます。この「レプチン」というホルモンの作用が悪くなる(つまり「パチンコの玉」が、「チューリップ」に入らなくなる)と食欲が抑えられなくなるのです。
私が学生のころの生理学の教科書に。猫の脳の視床下部を電極にて破壊もしくは刺激すると猫が無尽蔵に食べて「まるまる」と太ったり、全く食べなくなったりすると「がりがり」に痩せてしまっているという絵があったのが思い出されます。
一方、空腹になるとわれわれの胃から血液中にグレリンというホルモンが分泌され、脳の視床下部にある摂食調節部位に作用して食欲が刺激され空腹感が生まれることもわかっております。専門的ですが、このグレリンはペプチド(短いタンパク質のことでアミノ酸のつながった構造物です)の部分と、オクタン酸という脂肪酸(脂肪の一種)とが合体した珍しい構造をしており、しかもグレリンはペプチドと脂肪酸との結合がないと(食欲を刺激する)活性を示しません。胃から胃の中が空っぽだという情報がグレリン産生・放出につながり、それが脳に行くのです。ややこしいです、私たち医師にとってもややこしいですね。
食欲は、生きるために必要なことですから、脂肪細胞からの情報(レプチン)と胃の中の状態(グレリン)から食欲を制御しているのです。まさしく生物体のサバイバルのための食欲です。これだけなら、太るや痩せるなどはシンプルな仕組みなのですが、もう一つ、食欲には脳の「報酬系」が深く関わります。「ランチタイムだから」「美味しそうだから」「いい香りに誘われて」といった、無意識に認知・嗜好・経験・記憶などに関係して食欲を導くケースがあります。「おなかがすいてないのに、つい食べちゃう!」。不規則な生活やストレスでホルモンのバランスが乱れると、「ニセの食欲」が増えやすく、ムダに食べ過ぎてしまう傾向になります。実はこれが太る原因です。視床下部よりもっと深い部分にある「中脳」から、快楽ホルモンと言われる「ドーパミン」が分泌されると、脳の報酬系が発動します。例えば甘いものを食べるとドーパミンが分泌されて、心地(脂肪の一種)とが合体した珍しい構造をしており、しかもグレリンはペプチドと脂肪酸との結合がないと(食欲を刺激する)活性を示しません。胃から胃の中が空っぽだという情報がグレリン産生・放出につながり、それが脳に行くのです。
「人間は、失楽園を追い出されてからいろいろな快楽を覚えてしまった。その一つが食欲でありそれが肥満の大きな原因となる。これが健康のためにいけないのだ。そのような快楽を求める人間は早死にするのがいいのだ」という極端な考えの方もおられますが、その快楽こそが生きていくための活力であることもまた事実なのです。
では、なぜ食欲が出てくるのか? 実は食事をとらない時間が長く続くと、血中のエネルギー不足を補うと同時に、脳内では糖質不足を感知し強い空腹感を与えて食欲を導きます。これが「食欲」です。食欲を抑制する代表的なホルモンに、脂肪細胞から分泌されるレプチンがあります。このレプチンが低下することが食欲の促進につながります。次回は、もう少し詳しくホルモンの話をします。