北風ブログー783

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2024/1/19更新

病気―25

そのI先生、ご自分の血液検査と胸部X線写真、心電図検査をご持参されて、私の外来に1カ月に一度来られておりました。お話しいたしました自分で自分の診療をすることが禁止されている点について。これは、名古屋の大学病院でご勤務されているI先生のご子息が、週に一度I先生の診療を手伝われており、このご子息I先生に検査オーダーや処方をしていただいているため、違法ではありません。そのI先生の外来には、かならず奥様がついてこられていました。奥様は、I先生の医院の受付などもされておられるようで、とても愛想がよくて素晴らしい奥様です。


毎回の診察で、私はI先生が持参された胸部X線写真を前回、前々回とシャーカステンに並べて肺や心臓に何か問題がないか見比べます。今どきの診察室は、電子カルテですから、すべての画像データはコンピュータに取り込まれて、コンピュータで画像を観察するのですが、当時は、持ちこまれたX線写真は大きすぎてコンピュータに取り込むことができずに、現物を見るしか仕方がなかったのです。そのために、シャーカステンをすべての診察室に置いていました。ちなみに、Wikipediaによりますと、「シャウカステン(独Schaukasten)とは、医療や工業的な非破壊検査においてX線写真(レントゲン写真)、MRIフィルム、等を見る際に用いる蛍光灯等の発光を備えたディスプレイ機器。現在日本では、医療機器やデジタル情報化によりフィルムレス運用が進み、シャウカステンのない医療機関も増えつつある。」とあります。シャウカステンはドイツ語のschauen=見る、Kasten=箱、を合わせた言葉だそうで、英語でどういうのか辞典を調べてみると、light box used for viewing X-rays と当たり前の訳しかありませんでした。アメリカに留学していた時に症例検討会では、シャウカステンとは言わないでviewerとか言っていたような気がします。


通常は、胸部X線写真というと、肺気腫とか肺炎、結核などの有無を見比べますが、私たちは、写真の真ん中にある白い塊にいつも注目しております。これは、何かというと、心臓なのです。その塊の様子から、左心房拡大があるか、右心房拡大があるか、大動脈に問題があるかを見るのです。普通の方が見ると白い塊にしか見えないのですが、専門家が見ると心臓の各部位の大きさが見えて、さらに、肺にどれぐらい水分が貯留しているのかもわかります。胸部X線写真では、密度の高いもの(血液や水分など)は白く、密度の低いもの(空気など)は、黒く見えます。肺は空気が多いので黒く見え、心臓は血液が多いので白く見えるのです。ただ、肺うっ血などが生じると黒い肺が少し靄かかったように白く見えるので、これは肺うっ血(肺に水が溜まっている)があるな、とわかるのです。


ところで肺は右が3つに、左は2つに分かれていたって知っていましたか?右は上葉、中葉、下葉とあるのに左は上葉と下葉しかありません。身体は左右対称であることが多いのですが、肺は左右対称でない臓器の代表ですね。なぜかというと、心臓が左葉と右葉の間に収まりこんでいるからです。このスペースのため、肺は右が三葉、左が二様なのです。


そのI先生の胸部X線写真を見比べていた私、左の下葉に何か丸い白い円形の像(結節像といいます)があるのを見つけました。前回の写真でもそう言われればあるような感じがするのですが、前回に比べると今回、それが少しくっきりしてきているのです。それをI先生にお伝えすると、「ああ、それですね、それ以前の結核の痕なのですよ。若いころ結核をして薬でたたいて治ったのですが、また、出てきたのかもしれませんね。一度結核の検査をしておきます。」とのお答え。私も、I先生は私よりはるかに先輩の先生でしたので、そのお言葉をそのまま信じて「はい、承知いたしました」と申し上げました。


その時に、もっと強く精密検査をお勧めしたらと今でも思います。このI先生の肺にはなにが起こっていたのでしょうか?


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