北風ブログー779

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2023/12/22更新

病気―22

少し話を戻します。今回の江頭さんがご長命であられた理由は、医師のところに根気よく通われたことにあると言いました。具体的には、次の3つによるものだと考えられます。 1)ピグマリオン効果、2)プラセボ効果、3)ナッジ効果。これら3つについて簡単にご説明します。 まず、ピグマリオン効果とは、教師が学習者に期待を寄せることによりその学習者の成績が向上するという効果です。言い換えますと、人間は期待されるとそのとおりの成果を出す傾向にあることを指します。ピグマリオンとは、ギリシャ神話に出てくる王様の名前で、医学においては、医療従事者が患者さんに対して前向きな言葉をかけて、しかも患者さんがよくなるように頑張ることを期待しているということを告げると、患者さんは治療に対するモチベーションが上がり、よりよい治療効果を示すことを示します。まさに江頭さんは2週間おきに私のピグマリオン効果の洗礼にあっていたのです。私は、江頭さんに対して最初のころはパターナリズムで「このままだと心筋梗塞とか脳梗塞にありますよ」と高圧的にお話をしましたが、江頭さんに対してはパターナリズムの戦法では効果がないと悟り、マターナリズムで寄り添う姿勢で接しました。これが江頭さんの御長命の一つの要因です。ただ、これは誰でも成り立つわけでなく、個人個人によるのだろうと思います。まさしく、「医者と患者の相性」によるものといえましょう。


もう一つは、プラセボ効果です。実は江頭さんは私のところに通院するようになって数年後、薬を飲み始めていたのです。でも、それはフルイトランという大変軽い降圧利尿薬で、しかもその一日投与量は4分の1でした。このような量では、医学的には江頭さんのような高度な高血圧にはほとんど効果は示さないのですが、江頭さんの180mmHgであった血圧が170mmHgぐらいまで低下したのです。これは、プラセボ(偽薬)効果です。つまり、薬剤でないものを薬剤だと言って患者さんにお飲みいただくと、その効果が本当に出てくるというものです。たとえば、臨床研究では、とくに法律に基づいて行う治験ではプラセボ(偽薬)と実薬を患者さんも投与する医師もどちらがどちらか分からないようにして投与することが原則です。これをダブルブラインド試験(二重盲検試験)といいますが、この薬は効きますよといって患者さんに飲んでいただくと、がんでさえも、偽薬(薬の成分が入っていないもの)が効果を表すことが知られています。


さらに、ナッジ効果も江頭さんには奏功したように思います。ナッジというのは「軽く肘でこづく」という意味で、相手に対して血圧が高い、塩分を控えなくてはいけないということを、肘でこづくように気づかせてあげることです。受診のたびに、血圧と心筋梗塞、脳梗塞のお話をしているのはまさしくナッジ効果が最大限に引き出されます。


私と江頭さんのお付き合いした30年、年に100回の受診、合計3000回にわたる面談は、ピグマリオン効果、プラセボ効果、ナッジ効果による治療でその成果が100歳近くまでお元気にされた理由なのではないかと考えております。




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