北風ブログー778
2023/12/15更新
病気―21
もちろん「がん」や「急性心筋梗塞」など救命のために有無を言わず治療を行う状況もありますが、そのような場合でも現在はパターナリズムで医療を行うことはあり得ません。つまり患者さんに無断で治療することはあり得ないということです。逆に患者さんが「命を助けてください。どのような治療でも受けます」とおっしゃっても、勝手にいろいろな治療を行うことはできません。すべて患者さんにご説明して、ご了解を得てからしか治療はできません。唯一、患者さんに意識がなくて生命への危機が迫っているときだけ救命措置をしますが、余裕があればご家族の意思を確認してからしか治療を始めません。
例えば、あなたが突然の胸痛で病院に救急車で搬送されて、いろいろな検査の結果心筋梗塞とわかるとします。これは心臓カテーテル治療しかないと医師が判断して、そのまま無断で患者さんに心臓カテーテル治療を施すことはないということです。というのは患者さんには治療に対して自己決定権がありますので、「心臓カテーテル治療の説明をして、これをしないときはどのような治療があるかを説明して、その治療を受けるメリットとデメリット、起こりうる合併症を説明して、患者さんからサインをいただくという手続き」が必要となります。これを「インフォームド・コンセント」と言います。そのような用紙があらかじめ用意されていて、それに患者さんのご承諾が必要となります。つまり、患者さんの承認が必要という条件下ではあっても、治療を行うのが医師なのは明白です。その意味では、パターナリズムは存在するわけです。
ところが、この江頭さんの高血圧を代表として、多くの患者さんは慢性疾患、しかも生活習慣病と言われている病気にり患していることが多いのです。高血圧、糖尿病、脂質異常症は三大生活習慣病で日本人の成人のほとんどはこのどれかを有しており、何らかの治療を受けております。蛇足ですが、この三大生活習慣病は厳密には病気ではなく、医学では未病と定義されます。未病とは、健康と病気のちょうど中間にある状態で、「検査データに異常があるが症状がない、もしくは症状があるが検査データに異常がない」という状態です。高血圧で脳症(ふらふらする、目の奥が痛いなど)の症状が生じている方は別として、ほとんどの高血圧の方は症状がないので未病となります。ただ、医療上では高血圧を病気としています。その理由は、病気でないと治療できないからです。高血圧は未病ですがそこから脳出血や心筋梗塞が起こる確率が高いので、高血圧を病気と定義し、これを治療しようとしたのです。糖尿病も脂質異常症もそうです。
このようないわゆる“未病”は、パターナリズムでは治りません。患者さんが納得して薬を服用して、患者さんが「無意識の行動変容」を起こさないと治らないのです。つまり未病に対してはマターナリズムの治療が主体となります。最近の多くの病気は、マターナリズムの治療です。がんや心筋梗塞でさえも、医師や看護師はあくまでも患者さんのヘルパーにすぎません。治療の主体は患者さんであるとの認識が高まった結果、インフォームド・コンセントが導入されました。治療方針や治療法について医師からは十分に説明を行い、患者さんはそれに納得して承認する、という方向です。