北風ブログー774
2023/11/17更新
病気―17
この江頭さんの衝撃の登場は、昭和60年(1985年)ぐらいでしたでしょうか? 私は、まだ、大阪大学の大学院生でありながら内科外来をしていたころでした。当時の阪大病院は、大阪市福島区にあり、私は神戸に住んでいましたので、学生時代は阪急六甲から梅田まで30分、そこから徒歩15分で通学しておりました。結婚してからは、御影に住んでおりましたので、阪神御影駅から阪神福島まで25分、そこから徒歩5分で通勤しておりました。結婚したのは大学院生の最後の年でした。
忙しい循環器外来を終え、そんな物思いにふけっていると、その静寂を破るように私の病院内PHSがけたたましく鳴りました。
「先生、こちらCCUの看護師です。先生の患者さんの江頭さんが、急性心筋梗塞で昨晩搬送されました。とりあえず、今の状態は落ち着いております」
「え、そうですか、先ほど外来が終わって少し休憩したのですが、回診まで30分時間があるので今からすぐにCCUに様子を見にいきます」
とばたばたとCCUに出かけました。CCUとは、以前はCoronary Care Unit(冠動脈疾患集中治療)と言っていましたが、今は冠動脈疾患だけでなく、急性心不全などの患者さんも扱いますので、Cardiac Care Unit(循環器疾患集中治療室)と言います。
CCUに行き、病室に行く前に、看護師から江頭さんの状態を簡単にヒアリングします。看護師曰く、
「江頭さんは、昨晩急性心筋梗塞で運ばれてきたので、心臓カテーテル検査をしたところ、冠動脈に高度な狭窄があり、急性冠症候群と診断されてPCI(経皮的冠動脈形成術)を受けて無事成功しました」とのことです。
急性冠症候群とは、不安定狭心症と急性心筋梗塞を合わせた病気の総称で、冠動脈が突然完全にもしくは大部分が塞がることにより生じる病態を指します。江頭さんの場合は、血管が完全に閉塞していなかったため(不安的狭心症)に大事にならなかったようです。
CCUの病室に行ってみると、江頭さんがベッドでお休みになっていました。CCUは完全な個室になっております。江頭さん、少し耳が遠くなっているようで大きめの声で会話をいたします。
「江頭さん、大丈夫ですか?」と私。
「あ、先生、昨日お風呂に入ろうとして服を脱いで、「おお、寒い」と思ったとたんに急に胸が痛くなり、それでも辛抱してお風呂に入ったのですが、胸の痛みが止まらなくて。痛み止めのアスピリンを飲んだのですが、どうしても痛みが治まらないので救急車を呼びました」
「救急車は、兵庫県から大阪府に運ぶのを少し躊躇していたようですが、無理を言って運んでいただいたのですよ」
以前は、兵庫県の救急車が大阪府と県境まで運んでいって、そこで待機していた大阪府の救急車に乗り換えて大阪府の救急車で大阪の病院に運ぶという信じられないことが行われていたのです。
「江頭さん、たまたまですが、アスピリンを飲まれたのがよかったのですよ。アスピリンは痛みを和らげる効果もありますが、血栓を溶解する力を持っています。江頭さんの場合は、狭くなっていた冠血管に血栓(血の塊)が詰まってしまい、心臓が酸素不足になったのですが、アスピリンによりその血の塊が溶けて、助かったのです」
アスピリンは、CCUに運ばれてきたらまず患者さんに服用していただく薬剤なのです。それだけではなく、アスピリン(バイアスピリンが商品名)ですが、今では動脈硬化の予防薬として多く服用されています。バイアスピリンは、バイエルという製薬メーカーから販売されていますが、バイエルの方からお話を伺うと、「バイエルとしてはバイアスピリンの販売をやめたいとのこと。なぜかと言うと、1錠5.7円で一日1回、1カ月170円の売り上げなので、包装代、郵送代などを考えると売れば売るほど赤字になる」そうです。もっぱら社会貢献ですが、販売をやめると企業イメージが悪くなるからです。
江頭さんの衝撃は、さらに続きます