北風ブログー773

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2023/11/10更新

病気―16

2週間後、江頭さんがさっそうとしたお顔で私の外来に来られました。60歳を少し過ぎたとても上品で気品にあふれた本当の芦屋のマダム然としておられます。

「江頭さん、血圧を測りましょう。下がっているといいですね。」
「はい、そうですね。よろしくお願いします。」
血圧を念のため3回測定したのですが、私の意に反して血圧は180/100mmHgで前の診察の時よりまだ高めでした。私、少し焦り気味に 「あれ、血圧、下がっていませんね。おかしいですね。お薬飲んでいますよね」
つぶやくように江頭さんに問いかけました。 「それが、あのー、お薬怖くて飲めなかったのです。飲まないといけませんかね」
私、びっくり仰天して、また椅子から転げ落ちそうになりました。私、心の中では「当たり前でしょー、お薬を飲まないでどうして血圧が下がるのですか?」と叫んでいるのですが、顔はニコニコと作り笑いをしながら 「あー、江頭さん、この血圧は少しまずいですよ。今すぐにどうこうとなることはないのですが、このままだと、何年か後に、脳梗塞とか心筋梗塞を起こす確率が高くなりますよ。いやでしょ、脳梗塞が起こって半身不随に車いす生活になるとこまりますでしょ。ご子息に重荷を背負わすことになりますよ。」

いい忘れましたが、江頭さんにはいつも40歳前後のご子息がご同行されています。親孝行な息子さんですが、毎回お母さんの外来に付き添われているのは、いわゆる富裕層のような感じです。楳図かずお氏の漫画に出てくるまことちゃんに似ているので、私は心の中でこのご子息を「まことちゃん」とあだ名をつけておりました。この「まことちゃん」曰く 「お母さん、先生のおっしゃる通りだよ。ちゃんと薬を飲まないと脳梗塞になっても知らないよ。でも、脳梗塞になったら私がちゃんと介抱してあげるからね。心配ないよ。お母さんの好きなようにしたらいいよ」
「え、まことちゃん、どっちなんだ、お母さんに薬を飲めと言っているのか、飲まなくてもいいと言っているのか」、と私は心の中で思いながら

「そうですよ、江頭さん、ご子息のためにもここはきっちりとお薬を飲んで血圧を下げないといけませんよ。ご子息のためですよ」
「まことちゃん」の後半部分の発言を無視して言いました。


すると、驚くことにこの江頭さん 「それはそうと、私の子どもまだ独身なのですが、だれかいい人いませんかね。この子は不動産管理をしていて生活には困らないのですよ」
「えー、それ、話がそれとるやないか」と心のなかで叫びながらも 「はい、心がけておきます。うちは女医さんもいますからね」
あしらいながら「それより、お母さんの血圧が下がらないと、息子さんも安心して結婚できませんよ!」
引導を渡します。 「わかりました、次回は頑張って飲むようにいたします。息子のこと、またよろしくお願いいたします」と食い下がってきます。






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