北風ブログー771

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2023/10/27更新

病気―14

私、当時は大学院生でしたが、大阪大学附属病院(阪大病院)で循環器内科外来にも出ていました。医師免許があるので当然のことながら大学でも医療行為ができます。というか、大学院生も駆り出さないと病院が回っていないということだったのでしょうね。現在は、大阪大学をはじめ多くの大学で大学院生に外来や病棟業務をさせないことにしております。大学院生は、研究をするために大学に授業料を払っているので、その人間を大学の業務のために使うというのは、まずいという整理です。でも、当時は、そのような整理はないため、私も初めての外来に緊張しながらも医者としての第一歩を踏み出すという期待を持っておりました。


初めての外来の日、最初はもともと受け持っていた患者さんがいないので、すべて初診の患者さんです。初めての外来の患者さんは、江頭さんという60歳を少し超えたぐらいの女性でした。とても品のいいかたで、芦屋か夙川から来られている方でした。当時阪大病院は大阪市福島区にありましたから、夙川や芦屋からはとても近くです。

「江頭さん、どうされましたか?」

「人間ドックを受けたら血圧が高いと言われて、専門医を受診するように言われました」

「わかりました。心臓と脳と腎臓を調べてみましょう。血圧が高いと、血管が悪くなり、血管が悪くなると心臓・脳・腎臓が悪くなりますから」

「人間ドックで脳のMRI検査はしており、特に問題ないと言われております。」

「わかりました。それでは、心電図と心臓超音波検査、それと腎臓の血液検査をしましょう」

と、型通りの検査に入ります。40年近くも前のことですから、その日に検査を予約して、検査日に改めて検査だけに来ていただき、検査結果が出る1~2週間後に再度来ていただくという牧歌的な診察パターンが普通でした。今なら、その日のうちに心エコーや心電図、血液検査はもちろんMRIやCT検査も行い、その日のうちに結果を出し、その日のうちに、投薬やさらに精密検査の予約など次の対応がなされます。


江頭さん、その日の血圧が180/100とかなり高めでしたが、すぐに薬を投与するのではなく、1カ月はよく運動するなどの運動療法や、塩分を控えるという生活療法をすることが、ガイドラインで決められていたので、


「江頭さん、では検査が済んで次にお越しいただく1カ月後までの間、よく運動をして塩分を控えてくださいね」

「はい、わかりました」

「次の診察日までに何か変わったことがあればご遠慮なくお電話くださいね。私、外来は週に一度ですが医局には毎日8時から22時までいます」

お伝えしてその日の診察を終えました。余談ですが、医師は外来の日しかいないと思われている方も多いと思いますが、常勤医師は外来以外の日は、病棟で患者さんを診たり、内視鏡などの検査をしたり、アルバイトにいったり、実験をしたり、大忙しなのです。


そこから4週間たち、再度江頭さんが来られました。


「江頭さん、この前の検査の結果ですが、幸いなことに心臓も障害されておらず、腎臓も全く問題ありませんでした。よかったですね。でも今日の血圧は、生活習慣や食生活の改善をしていただいたかと思いますが、170/100でしたね。あまり効果がなかったですね。血圧が高いと、将来、脳出血、脳梗塞、心不全、心筋梗塞、腎不全、動脈硬化症などさまざまな病気の原因になりますので、今日お薬を出します。今まで高血圧の薬を飲まれたことはありますか? また、アレルギー反応など出たことはありますか?」


「いいえ、今まで高血圧の薬は飲んだことがなく、またアレルギー反応は起こったことはないです。」

「それでは、Ca拮抗薬を2週間お出ししますので、2週間後にまた来てくださいね」

当時は、今みたいに長期投与が認められていなかったので、すべての薬は2週間に一度もらいに行かなくてはいけなかったのでした。


このあとの、江頭さんのご返事があまりにも予想外でしたので、私は椅子から転げ落ちそうになりました。 「私、薬はのみません!」






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