北風ブログー770

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2023/10/20更新

病気―13

くだんの戸田さんの次回の診察日は、ちょうどお盆のタイミングでした。お盆ですので患者さんは通常来られませんが、医務室は何かの時のために空けておく必要があります。会社も外向きには閉まっているのですが、少数ですが社員が出社して仕事をさせておられます。その医務室の切れ者の看護師さん2人とだらだらとだべっていると「先生、こんにちは」という訪問者、そう戸田さんです。


「どうしたのですが、戸田さん、今日はお休みではないのですか?」


「はい、今日はお休みなのですが、書類を忘れたので取りにきたついでに、医務室が開いていると聞いて寄りました」


「どうですか、お盆は。ゆっくりされていますか?」


「はい、日ごろの忙しさが嘘のように平安な日々ですね。このお盆の季節だけが私の休養日です」


「あ、そうそう、戸田さん、ついでに血圧を測りましょうね」


と血圧を3回測定しました。通常、血圧は1回から2回測定します。1回目はどうしても被験者が緊張するため高めに値が出るからです。なぜ、3回測定したか、それは1回目のデータが衝撃的だったからです。その血圧はなんと120/70mmHg。測定ミスかと思いあと2回測定したわけですが、間違いがありません。いつも、薬を飲んでいても血圧は140-160/90-100mmHgで決してコントロールがいいとは言えない状態だったのに、驚きです。


「戸田さん、何か変えましたか?薬をきっちり飲み出したとか、急にマラソンを始めたとか……」


聞きながら、戸田さんのご様子を改めてみましたが、少し小太りの戸田さん、体重もおなか回りもなにも数か月前と比べて変わりはありません。ヒントは、今日は戸田さんにとって久しぶりの休日です。 そうです、戸田さんの血圧を上げていたのは総務部長としてのストレスで、たまたまお盆の休暇中に来られたのでストレスはなく血圧は正常化していたということでした。戸田さんには、それまで投与していたカルシウム拮抗薬を中止して軽い精神安定剤とストレスを下げるβ遮断薬を投与して、さらになるべくイライラしないようにとお伝えしました。戸田さん、笑いながら「お薬はきっちりと飲みますが、イライラしないのはむつかしいな……」。でも、それ以降戸田さんの血圧は仕事中でも140/80mmHgどまりです。


いい勉強になりました。「ストレスが血圧を上げる」と教科書には書かれていますが、医者になっての実体験でした。戸田さん、いまはもう85歳ですが、とてもお元気で今でも年賀状のやり取りをしております。精神統一のために真剣で居合切りをしているそうです。でも、その居合抜き、少し血圧を上げそうですが、いいストレスなので血圧はかえって上がらないかもしれませんね。いいストレスと悪いストレスと血圧の関係を研究すると面白いかも……






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