北風ブログー785
2024/2/2更新
病気―27
その”I”先生は、次の診察日も私の外来に来られませんでした。その代わりに私の外来の来られた奥様から衝撃的なお話を伺うことになります。
奥様曰く――
実は、主人、尿が出にくくなり泌尿器科で検査してみると前立腺癌だったのです。血尿は以前からたまにあったのですが、先生には血尿が出ていないときの血液・尿検査のデータをお持ちしていたようです。さらに、尿路結石がまだ取り切れていなくて血尿が出ていたと自分に都合のいい医学的解釈をしていたようです。
――でも、尿路結石だと痛みがあるはずなので本人はお判りになるはずですが……と私が口をはさむと、
奥様曰く――
いえいえ、痛くない尿路結石もあるはずだと本人言っていましたね。
奥様はさらに続けます――
でも、最近、少し尿が出にくくなってきたようなのです。それが、とうとう一滴も尿が出なくなってしまったのです。(尿閉と言います)。尿意は強いのにおしっこが出ないとなると、それはそれは地獄の苦しみです。それで出身大学の同級生の関係を頼って泌尿器科を緊急受診したのです。本人は、前立腺肥大だと思っていたようですね。PSA(前立腺癌の腫瘍マーカー)が2、3年前から10ng/mLを超えていたようです。それも、本人は、「それは前立腺肥大のせいなので、精密検査などする必要はない、だいたい、MRIや前立腺の生検(臓器や組織の一部部分を採集して、顕微鏡などで調べること)のためには、入院しなくてはいけないだろ、どこにそのような時間があるのだ」といっていました。
私曰く――
PSAの正常値は4 ng/mL以下ですから、その値が5とか6とかでしたら前立腺肥大と考えてもいいですが、10となると普通は前立腺癌を考えて、泌尿器科で精密検査を受けますよ。I先生のような慎重な先生がなぜ……?
奥様は――
問題はそこからなのです。緊急受診してすぐに尿閉は解除できたのですが、前立腺の生検を行うと、がん細胞が出てきたのです。しかも、前立腺の近くのリンパ節にも転移しているのです。
私曰く――
それはいけませんね。ホルモン療法で前立腺癌をたたいて放射線療法か、外科的治療ですね。でも、前立腺癌は比較的悪性度が低いのでそれでよくなりますよ。私の患者さんでも前立腺癌+リンパ節転移があったのですが、ホルモン療法でたたいて、放射線療法で完治した方が何人もおられますよ
奥様がその次に衝撃的な言葉を発します。