北風ブログー787

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2024/2/19更新

病気―29

病気―29


I先生のことではいろいろと考えさせられました。


医者は、長い医者人生の中でがん患者さんに「がん」という病名を告げなくてはいけない状況に少なからず遭遇します。がんはかなり治るようになってきましたが、それでも「がん宣告」には患者さんはもちろん、宣告する医師にも大きなインパクトがあります。宣告をする患者さんはつらいですが、宣告する医者のほうはもっとつらいものです。だれでも、いい話はすぐに人に伝えたいですが、悪い話はなるべく最後に伝えたいと思います。


患者さんが「がん」と診断された場合、患者さんや家族は、待ち受けるがん治療の大変さだけでなく、不安な精神上の問題や、会社を休んでどう生活していくかといった現実の問題と向き合うことになります。「がん」という診断を受けたとき、多くの患者さんはショックを受け、頭が真っ白な状態になってしまいます。この状態は、「衝撃」の段階と呼ばれています。しばらくしていったんは、がんであるという現実を「受容」しようとしますが、治療がうまくいかず死んでしまうかもしれないという不安や恐怖から、自分が「がん」患者であることを「否認」しようとします。そんなはずがない、私が「がん」になるはずがない、なぜ私だけが「がん」にならなくてはいけないだ、と「否認」と「疑問」が頭の中を渦巻きます。でも、医師からは「がん」であることを突き付けられるので、「否認」と「受容」の間の往来に拍車をかけます。そうして、徐々に「がん」を受容する方向に向かっていきながら、最終的に、前向きに「がん」治療に取り組み始めます。つまり、がんである現実を受け入れ行動を始めるという「適応」の段階に至ります。これが「がん宣告」を受けた方の精神の動きです。


医師はこの「がんの受容プロセス」をよく知っており、その間の患者さんの葛藤の大変さもよく知っております。でも、医師も人間ですから「がん」になることがあります。医師は、ある個人が「がん」を宣言されたときの精神的大変さをよく知っているので、自分に宣告されたがんの存在を「否認」したくなります。とすると、患者は医師ですから、その「否認」に対して理論武装できるわけです。前立腺癌で見られた頻尿や残尿感は年のせい、このPSAの上昇は、前立腺癌ではなく前立腺肥大のせい、肺の結節像は前立腺癌の転移ではなく昔の肺炎の傷跡のせい、と自分のがんの「否認」の理由をつけることができるのです。ほかの医師は、「がん」にかかった医師が自分自身に下した「医師の診断」を否定することはできません。とくに医師本人が自分に下した診断に対して他の医師に相談したのならいざしらず、どの医師もI先生からその診断自体については相談受けていませんから、がん宣告は否認されたまま放置となります。


でも、がんは進行性で勝手に治癒はしません。I先生も否認はしたものの、少しずつ衰えていく体力と進行性の泌尿器症状、肺症状をもってして自分のがんを「受容」した時は手遅れとなっていたのです。このI先生の場合には、医師自体の持っている体験と知識のなせる技が、「がん治療」が手遅れになってしまったという不幸の原因だったのではないでしょうか?





合掌






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