北風ブログー786
2024/2/19更新
病気―28
病気―28
I先生の結論です。
私曰く――
奥さん、もしかしてそれは胸のX線写真の結節陰影のことですか? もしかして肺に遠隔転移していたのですか?
奥様曰く(涙ぐみながら)――
先生、その通りなのです。主人は肺結核の痕だと言っていたのは、それは実は前立腺がんの転移らしいのです。PET-CT検査で前立腺と肺、肝臓に陽性所見が出たのです。
主人は、前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSAの血中濃度が高いことを以前から心配したのです。でも、繊細で心配性だったので、精密検査をすることを怖がっていたのです。
I先生の奥様と私の大切な会話の途中ですが、ここで少しPET-CT検査の解説です。PET-CTとはペットである猫や犬のためのCT検査ではなくて、positron emission tomography(陽電子放出断層撮影)の略です。これは、放射能を含む薬剤を用いる核医学検査の一種で、放射性薬剤を体内に投与し、その分析を特殊なカメラでとらえて画像化します。CTなどの画像検査では、通常、頭部、胸部、腹部などと部位を絞って検査を行いますが、PET検査では、全身を一度に調べることができます。核医学検査は、使用する薬剤により、さまざまな目的に利用されていますが、現在PET検査といえば大半がブドウ糖代謝の指標となる18F-FDGというくすりを用いた”FDG-PET検査”ですが、がん細胞がブドウ糖を栄養源として取り込むという性質を利用しております。
――ここで閑話休題
私曰く――
でも、ふつうはPSAが高いときにそれが患者さんであるならば、すぐに泌尿器科への受診を進めます。その結果、前立腺癌ではなく、前立腺肥大だったら安心ですし、もし前立腺癌であれば、超ラッキーです。早期発見ですから、今の医療技術なら、早期前立腺癌は90%以上の確率で治ります。たぶんI先生なら、ご自分の患者さんに対してそのようにされただろうと思います。なぜ、自分のときだけ、そのアルゴリズムを作動させなかったのか、不思議です。紺屋の白袴ですかね。ところで今、I先生はどうされていますか?
奥様曰く――
母校の大学病院に入院しています。ホルモン療法は、ホルモン療法抵抗性なので効果が少ないようです。放射線療法は転移が広範囲に広がっているため無理だそうで、もう抗がん剤治療を始めています。
私曰く――
そうですか? 最近抗がん剤もいいのができていますので、治りますよ、頑張っていきましょう!
でも、それ以降、I先生のお顔を見ることはありませんでした。医院は、お子様のI先生が引き継いでおられます。実は、このI先生ジュニアは、藤田医科大学のご出身で、私、講演会を聞きにきてくれていて、以前からよく知っていました。いま、この医院をネットで検索すると、大阪府にあるS市で、第二位の人気開業医とのことでとてもうれしいです。
奥様も血圧が高かったため、私の外来に引き続き通っておられました。ところが残念ながらこの奥様も数年後脳梗塞でお亡くなりになってしましました。I先生ご夫妻のご冥福と、Iジュニア先生のますますのご清栄をお祈りする次第です。