北風ブログー788

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2024/2/23更新

病気―30

病気―30


私の高校の同級生で大阪大学でも同級生だったM先生という方がいます。大阪市内の大病院の整形外科部長を長年されており、今は大阪市内で整形外科医院を開業されています。この医院、「なんちゃって」整形外科ではなくて、手術室を有している本格的な整形外科医院です。このまえ大学の同窓会があり、彼と話をしましたが、「開業のため数億円借金したけれど、やっと返済できそうだ」と、言っていたので大繁盛しているようです。私も、私の患者さんを何人かご紹介いただいています。


10年以上も前、このM先生からある患者さんを診てあげてほしいとご紹介を受けました。Tさんという女性です。当時は65歳ぐらいでしたでしょうか? TさんはM先生のご自宅の近くに住んでおられて、お二人はとても仲良しです。TさんはM先生のことを「健ちゃん」と呼んでおられます。このM先生のお父様はもともと整形外科の教授で、Tさんのお父様は京都の八坂神社の絵師。共に西宮の苦楽園にお住いのお隣さんだったため、仲良しだったそうです。お二人のお父様はすでに他界されており、子どもたちの時代になっております。お父様同士が仲良しで、その子供同士がまた仲良しなのはすごいことですね。西宮の苦楽園も以前の芦屋マダムの芦屋と同じぐらいの関西では有名な高級住宅街です。


で、このTさん、表面的にはとてもお元気なのですが、身体のなかでは、実は高度の大動脈弁狭窄症を抱えておられます。「え、『大動脈弁狭窄症』ってなんですか?」という質問が出てきそうなので前もってご説明いたします。大動脈弁狭窄症とは、心臓の弁のひとつである大動脈弁がきちんと開かなくなる病気です。


ここから心臓の講義です。がまんして少し聞いてください。心臓には、三尖[さんせん]弁、肺動脈弁、僧帽[そうぼう]弁、大動脈弁の4つの弁があります。そのひとつの大動脈弁は、左心室(左室)と大動脈の間にあって、肺で酸素が豊富に取り込まれた血液(動脈血)を、左室から大動脈経由で全身に送り出す際の関門の役割を果たしています。大動脈弁は心臓の収縮期に開いて、左室から大動脈に血液を送り出し、拡張期には閉じて、左心房(左房)から僧帽弁を通して送り込まれる血液が、左室に満たされるのを助けます。


ところが、なんらかの原因で大動脈弁が損なわれ、動きが悪くなって、収縮期にきちんと開かなくなると、弁口が狭まって(狭窄して)、左室から大動脈に血液が送り出しにくくなります。高速道路のETCでいえば、ETCの機能が悪くなり、十分に車がETCを通ることができなくなっている状態です。その結果、左室に大きな負担がかかるようになり、進行すると心不全(心臓のポンプ機能低下)を引き起こします。これが大動脈弁狭窄症です。大動脈弁が狭窄するのは、弁が硬くなったり、くっついたり(癒合と言います)するからです。大動脈弁の弁尖(扉の役割を果たしている半月形の膜)や交連部(弁尖と弁尖の境目の部分)に、そうした異常が生じます。


弁尖は、石灰化(カルシウムなどが沈着し弾力性や柔軟性を失った状態)したり肥厚したりすると、硬くなります。交連部で、隣り合った弁尖がくっついてしまう(癒合してしまう)こともあります。そうなると、弁口面積が狭くなってしまうのです。大動脈弁狭窄症を引き起こす原因には、先天的な(生まれつきの)もの、動脈硬化によるもの、リウマチ熱の後遺症などがあります。先天的なものの代表は、二尖[にせん]弁です。大動脈弁の弁尖は本来3枚あるのですが、生まれつきこれが2枚しかない人がいます。弁尖が2枚しかないと、狭窄しやすくなります。これは先天的なものなので、比較的若い年齢層で発見されることが多いのです。一方、高血圧や糖尿病、高脂血症などを抱えていると動脈硬化が進みますが、大動脈弁ももともとは血管ですので動脈硬化は起こり、弁尖は石灰化します。多くの高齢者では、加齢によって硬化・石灰化した大動脈弁狭窄症が見られます。


M先生から紹介をうけたので、Tさんすぐにその日に精密検査をいたしました。心臓超音波検査をしますと、「弁口面積は1.1平方cmで圧較差が50mmHgで大動脈弁狭窄症は中等度~高度」との結果が返ってきました。当時は私、国立循環器病センターの心臓血管部長をしていて、そこへのM先生からのご紹介でした。私が赴任するまでは、初診時に心エコー検査を予約し、予約日に検査に来て、その結果を聞くために別の日に来ていただいておりました。結果が出るまでに、3回受診しなくてはいけなかったのです。しかし、それではあまりにも患者さんに負担がかかると考えて、患者さんが来院した日にすぐに検査ができる初診時検査枠を作り、その日のうちに迅速報告として報告できるようなシステムを作りました。正式な診断は、1)心エコーの技師さんが読影して、2)循環器専門若手医が確認して、3)それをさらに循環器上級医師が確認するというものだったのですが、そうすると遅くなるので、1)心エコーの技師さんが読影して、2)循環器専門若手医が確認したものを、外来の医師が確認するという方法をとりました。そうすると、検査日で結論が出るものでした。


私の判断は、これは手術しかないというものでした。









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