北風ブログー790

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2024/3/8更新

病気―32

病気―32


このTさんの大動脈弁狭窄症の罹患率は60~74歳で2.8%、75歳以上で13.1%と報告されており、日本における60歳以上の大動脈弁狭窄症患者数は約284万人、そのうち重度の患者数は約56万人と推計されています。かなり多い数字ですよね。一方、大動脈弁狭窄症を根治するための手術治療は、2018年の実績で外科的大動脈弁置換術とTAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)を合わせても約2万人しかないので、多くの方が放置されているか、このTさんのように経過観察されているのです。


なぜ、お年を召してくると大動脈弁狭窄症が起こるのでしょうか? 高齢になるとよく起こる生体現象として知られているのは、認知機能低下や動脈硬化ですよね。認知機能も動脈硬化が関与することが知られていますから、やはり血管の障害が大きく老化と関係するものと考えられています。内科医であったWilliam Oslerが、医学の世界では有名な「人は血管とともに老いる」という言葉を残したのは19世紀ですが,その考えが正しいことが今日明らかとなってきているのです。実際、日本人の死因の第2位と4位を占める心筋梗塞、脳梗塞、大動脈解離などの多くの病気が血管の障害により生じてきているのです。 血管は水道管のような均一の管のように見えますが、実は血管は内膜、中膜、外膜の三層構造をしております。内膜は、血管内皮細胞、中膜は血管平滑筋・線維芽細胞、外膜は結合組織が主体として成り立っています。外膜は血管の保持、中膜は血管のトーヌス(血管の収縮と弛緩)、内膜は血管の中を通る血液に対するバリアーの機能を有しますが、実はこの内膜の内皮細胞が血管の老化を決めていると考えられています。血管内皮細胞から一酸化窒素(NO, nitric oxide)が産生されており、このNOの産生が減ると動脈硬化が生じることが知られています。NOは、血管拡張作用や、血小板凝集抑制作用、白血球接着抑制作用、サイトカイン産生抑制作用など専門的にはいろいろな作用がありますが、一番大切なのは、NOにはいろいろな細胞の増殖抑制作用があることです。とすると、内皮細胞からでているNOの作用が減少するとそれが中膜の平滑筋細胞・線維芽細胞の増殖を促進して動脈硬化が生じるのです。


ところでみなさん、ご存じでしたか、心臓は、もともと血管だったことを! みなさんがお母さまのおなかの中におられた40週のうち胎生第3週ごろ、つまり胎児のはじめのころ口咽頭膜付近の中胚葉から造血管索が生じますが、この造血管索である管状構造は心内膜性心筒となり、胚子の側屈に伴って1本の心筒が形成されます。この心筒は成長しながら心球・心室・心房を形成します。この心筒の成長が胎児全体の成長に対して速いため、次第に腹側からみて反時計回り方向に弯曲を始め、心房が心室の上にくるようになります。簡単に言えば、血管の筒が「折れて、曲がって、ねじれて右心房、右心室、左心房、左心室ができるのです。この中を血液がながれることになるのです。


この時に驚くべきことが2つ生じます。まず一つ目は、血液の流れの多様性です。たとえば、足から心臓に戻ってきた血液がまた足に戻っていくこと、考えるとすごいことですよね。180度、血液の流れの方向が変わるのですよ。いわば心臓は血液の流れに対してヘアピンカーブをもたらしているのです、つまり、血液の流れの方向を全くの逆にしているのです。すごいことですよね。そしてもう一つは、血液が逆流しないように心臓の中に弁が4つ付いいていることです。この4つの三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁の存在により血液が逆流せずに一方向に流れるわけです。最近ではあまり使わなくなりましたが、石油ストーブに石油をいれる「灯油ポンプ」、これは灯油が逆流しないように弁がついています。石油缶から吸いこんだ石油が石油ストーブに流れて、石油缶に戻らないようにしないといけないからですよね。心臓もそれと同じです。


ところがこの弁は、当然もともと血管からできたものですから、加齢とともに動脈硬化が生じるように弁硬化症が生じて、大動脈弁狭窄が生じてしますのですよ。左心房・左心室にある大動脈や僧帽弁の機能不全が、右心房・右心室にある三尖弁・肺動脈弁より機能不全がより生じやすいのは、左心系の圧力が高いためだろうと考えられています。圧力が高いとどうしてもいろいろな障害が起こりやすいですね。






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