北風ブログー793

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2024/3/29更新

病気―35

病気―35


「どうしたのですか?Tさん。何かありましたか?どこか痛いですか、それとも体がしんどいのですか?」私は、てっきり心不全の症状である呼吸苦などで体が苦しくなったTさんが私に連絡してきたものだと思いました。「そうだ、とうとうその日が来たのか、急性心不全だな、これはすぐにどこかの病院に紹介しなくてはいけないな。あらかじめ決めていたもともとTさんが通っている私がもともといた病院、それともおうちの近くのK病院、それとも神戸大学病院……」と次のTさんの返事がなされるまで、頭の中はいろいろと駆け巡りました。


「先生、私、体は大丈夫なのです。胸は痛くもかゆくもないし、身体がしんどいこともないのです。ただ、心が苦しいのです」私曰く「心が苦しいとはどういうことですか?(まさか恋の悩みか? でも心不全なのに心が苦しいとかうまいこと言うよな……)」


「先生、じつはね、先生の後任の先生から『Tさん、これほど悪くなっていて私が手術(TAVI)を受けなさい、でないと命を落としますよ、とこれほど言っているのに、どうしてTさんはTAVIを受けないのですか? それなら、Tさんが死んでも私は知りませんよ。Tさん、私はもうあなたは私の外来に来なくていいです。どこにでも行ってください』と言われたのですよ。どう思いますか?」


「……(私、絶句です)」


「それでね、先生ね、私、そのA先生に申し上げたのですよ。『先生、そう言わずに私を助けてくださいよ。私は元気でまだ手術は必要ないと思うのですよ。また、半年後に展覧会が控えているのでもう少しこのままでおいてくださいよ』と。そうすると、先生どう思いますか、A先生がこうおっしゃるのですよ『いや、僕はもう嫌です。あなたが死んでもどうなっても責任が持てませんので、もう診ません。考えてもみてください。私が、こうしないとあなた死にますよ、と申し上げてもあなたがそうしないのなら、私はあなたに対して責任が取れませんよね、だからあなたをもう診ません。もし、ここに2人のIさんのような病気の方がおられるとしたら、死亡率は50%ですので、死ぬのはあなた、Iさんです!』」


「……(私、絶句です)」


このA先生は私の後輩です。A先生はスパッとした性格の方で、入局していた医局の教授から帰局を命じられて、帰局しないなら破門・退局だ、と言われて、「はい、わかりました。私は、大阪のこの病院にいたいので退局します」と、スパッとやめてしまった医師です。


この先生のIさんに対する気持ちは大変良くわかります。「このままいくと溝にはまるよ、と私が言っているのに、私のいうことを聞かないのならば、それなら責任が取れないので他の先生に診てもらってください」ということなのです。一方、Tさんの気持ちもよくわかります。「私の体なので私の好きなようにさせてくださいよね。でも、私、死にたくはないのですよ。先生は、最期まで私に寄り添ってくださいね」。どちらが正しいと思いますか?












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