北風ブログー808
2024/7/12更新
病気―46
プラセボ効果とノセボ効果は、心身の反応に関連している生体現象で、心理現象が生体現象に大きく影響するということです。心理現象と生体現象が密接に結びついているということは理解可能ですよね。たとえば、人は一般的に緊張すれば心拍や血圧が高まりますし、怖いと鳥肌が立ちます。これらは、心理状態が生体に影響を及ぼすということです。生体現象として面白いのは、試験で緊張しても、お化け屋敷で緊張しても、恋人の前で緊張しても同じような現象が生じるということです。これらは同じような刺激として位置づけられて、交感神経を刺激します。これは、モーツァルトのセレナーデのようなここちよいクラッシックを聞いても、〇〇教授のつまらない授業を聞いてもどちらも眠くなるのと同じで、こちらは副交感神経が刺激されます。
このような心理現象は薬効にも影響を及ぼします。つまり、ある降圧薬を本人に知らせずにうどん粉にすり替えても、血圧が下がるということがあるのです。これをプラセボ効果と言います。これは、薬効成分を含まない偽物の薬(プラセボ)を患者さんに飲ませ、病状に改善がみられる現象です。特に医師から「これはとても良く効く薬だ」と言われるほど、プラセボ効果が高いとされています。薬を飲むことで良くなるという思い込みや安心感が生まれるからです。
新薬の開発ではこのプラセボ効果を排除するためにダブルブラインド法(二重盲検法)を採用します。これは、開発中の薬と全く効果の無い薬を2つのグループに分けた患者さんに服用してもらって、その効果を検討します。処方する側の医師もそれが本当の薬なのか、偽薬なのか判らない環境で処方するので二重盲検法と呼ばれるのです。
このMさんの場合、フルイトランが思いのほかよく効きました。フルイトランはプラセボではなく実薬でしたので厳密にはプラセボ効果とは言わないのですが、阪大病院の大先生が「これはとてもいい薬です」とのたまうのを聞かされて、フルイトランの実力以上の力がMさんに対して発揮されたのだろうと思います。その意味では、プラセボ様効果といえるのでしょうね。血圧は実際に下がっているのでこれは現実で、それだけ脳卒中や心筋梗塞の予防効果としては予想以上となるわけです。こうするとコスパがいいですよね。安いフルイトランで高価な薬剤を2つも3つも使わなくていいわけですから。
これに対して、ノセボ効果とは、なんでしょうか? これは、医師から薬の副作用を説明され、偽薬にもかかわらずその言葉に過剰に反応して、副作用の症状が現れる現象です。薬剤や治療に対する不信感がある場合も、ノセボ効果が現れることがあります。このような例があります。「この薬の副作用として眠気が出る場合があります」と説明してカフェインを処方した実験があります。カフェインは、眠気を取る薬剤で睡眠薬とは逆の薬です。まるで、「え、睡眠薬と聞いて飲んだのに目がぱっちりあいて全然寝れないよ」というドッキリに使えそうなネタです。ところが、一定数の患者さんは次の診療日に「先生、あの薬を飲んだら先生の言うように眠くなっちゃいました」と。これはドッキリでもやらせでもなく実際の臨床現場でよくあることです。
人間は奥深くこのような機能がAIで解決できるのでしょうか? 実は、それも見越してAIは生体現象を模倣することができるのです。