北風ブログー807

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2024/7/5更新

病気―45

このMさん、とても腰の低い方で少しお声がけすると「先生にそんなに親切に聞いていただいて、もったいない、もったいない」と口癖のようにおっしゃいます。


「Mさん、ぜひ、この薬は絶大な効果があるはずですから、飲んでみてください。血圧はいま上のほうが170、下のほうが100ですのであと30ぐらいは下げないといけませんよ」

「え、そんなに下げないといけないのですが? 先生、普通、血圧は年齢+90と言われていますよね。私、80歳ですから正常血圧は170ではないのですかいな」

そうです、私が子どものころ、確か親父の血圧が少し高くてその時に私に教えるように


「自分の会社の産業医から聞いたんだけれど、年齢が40歳だからその年齢に90を足して130が自分の血圧の正常値なんだよ。でも、自分は150あるので高血圧なんだ。だから今この薬をもらっているんだ」

と、ピンク色の花模様の薬を見せながら私に説明していたのを、子どもながらおぼろげに覚えています。でも、その高血圧の基準値は高血圧学会で修正されて、「年齢によらず血圧は140/90(最高血圧、最低血圧)を超えると高血圧と判断する」となりました。最近それがまた修正されていますが、大きくは140/90がカットオフラインです。ちなみにここまでの数字の単位はmmHg(ミリメーターマーキュリーと読みます)です。


また、私の父親が会社の産業医から投与されていたのはフルイトランという降圧利尿薬で、古典的な降圧薬です。高血圧は塩分摂取過多が原因の一つですので、尿に塩分を出すことによって血圧を下げようという薬剤です。ですので、利尿薬が高血圧治療薬となっていたわけです。余談ですが、親父の会社は神戸の富士通テン(現デンソーテン)で、産業医は神戸大学病院の循環器内科医師でした。私が、医者になった時に、循環器内科ってどんな学問か、この先生に伺いにいったのはもう40年も前の話です。(閑話休題)


このMさんは、以前お話しした芦屋マダムと違い素直に私の投与したお薬を飲んでくださいました。そして、次の診察日、確か2週間後だったと思います。というのも、今でこそ睡眠薬などは別にして90日投与が認められていますが、当時は2週間投与が一般的だったのです。血圧が150/90mmHgと下がっており、私、そのデータを患者さんにお知らせしました。今では自動血圧計で診察前に患者さんに測定していただくのですが、当時は自動血圧計もなく医師が診察の際自分で測っていたのです。当時でも一般病院では看護師さんが診察の前に測定してくれていたのですが、大学病院の看護師さんはスパルタなので医師が血圧測定に従事していたのです。


このMさん、その血圧を私から知らされて「えー、先生、すごい! こんな血圧、夢のまた夢でした。先生は名医ですね。大先生でいらっしゃる!」と大絶賛。でもこれは私がすごいのではなく、フルイトランが著効を示しただけです。さらに言うと、本当はフルイトランはそれほど効果がなくて平均10mmHgも下がれば上等の薬剤です。ですので、血圧が20も下がったのは、効きすぎだと思いました。こういう効果をプラセボ効果と言います。次回、プラセボ効果について説明しますね。「プラセボ効果なんて知っているわー」という方にはついでにノセボ効果も説明します。もし、「ノセボ効果を知っているわー」という人がいたら、その人は医学の達人です!









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