北風ブログー806
2024/6/28更新
病気―44
私が阪大病院の外来で診療していた時のことです。まだ、病院が大阪市福島区にあった時代ですから、いまから30年以上も前のことです。その時の患者さんの中にMさんという80歳を超える女性がおられました。Mさんは、高血圧で悩んでおられました。ご承知のように高血圧は、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、心不全、動脈硬化など多くの病気の原因となります。ですので、このMさんにとって高血圧は大きな問題でした。でも、当時の血圧の薬剤ではなかなか高血圧治療は満足いく結果が得られなかったのです。当時は降圧利尿薬、短時間作動型Ca拮抗薬ぐらいしかなくて、血圧のコントロールは難渋を極めていたのです。
このMさん、おひとり暮らしです。お子様がおられたようですが関東にお住まいでずーっとおひとりのようでした。私の外来に来られた時は、おひとりで大変不安そうにしておられました。阪大病院は福島区にあるのですが、確か旭区から地下鉄と環状線を乗り継いで来られたようでした。近くの開業の先生からの紹介状をお持ちで紹介状には
「血圧が高くてその調整ができないこと、心臓に対する影響があるかもしれないのでみてあげてほしい」とのことでした。
「Mさん、どうですか、調子は?」
「いや、先生、お若いですね。おいくつですか? え、32歳、お若いですね。私の子どもより若いですね。こんな若いのに立派なお医者さんになられて素晴らしいですね」
「いえいえ、医学部卒業して医師国家試験を通れば自動的に医者になれますので、24、5歳からみな医者になるのですよ」
「ところで、心臓の調子のほうはいかがですか? 歩くと胸が苦しかったり、息が上がったりはしませんか?」
「いえいえ、大丈夫です。あまりしんどくならないように注意していますから」
「ということは、普通に歩くとしんどいのですか?」
「そうですね、若い人と歩くとしんどくてついていけないのでゆっくり歩くようにしています。ですので、しんどくないのですよ」
「はい、それでは早速調べていきましょう」このMさんとはおばあさんと孫の漫才のような会話から始まりました。