北風ブログー811

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2024/8/2更新

病気―49

そのようなフルイトランのプラセボ様効果とお寿司の差し入れが取り持つ「孫とおばあちゃんの時間」が数年続きました。

Mさんも85歳となったある診察日のこと、Mさんが「今日、阪神百貨店が臨時休業だったので、阪急百貨店にまで、足を延ばさなくてはいけなくて、それで少し疲れました」「えー、そうですか? それでは、少し聴診させてください」と脈を診て心音を聞くと、脈拍が110/分、心音に少しだけ収縮期雑音が聞こえます。でもその収縮期雑音はいつも聞きなれている胸のやや左のほうではなく、右のほうから聞こえます。いつも聞きなれているのは、僧帽弁逆流症や大動脈弁狭窄症です。これは、左室と左房を分けている僧帽弁や、左室と大動脈を分けている大動脈弁の異常により聞こえてくる心雑音です。でも、これとは違うのです。 心臓は、左と右に分かれております。左は上の方に左心房、下のほうに左心室、右は上のほうに右心房、下の方に右心室が、あります。ところが右の心臓は右にあるのではなく、心臓の斜め前に、左の心臓は斜め後ろにあるのです。雑音がいつも位置ではなくやや右のほうから聞こえているということは、右心房か右心室から聞こえているということを意味します。右のあるものといえば、三尖弁と肺動脈弁ですが、肺動脈弁の異常は珍しくまた先天的なことが多いので、Mさんの場合は三尖弁の弁膜症の可能性があると考えました。


そこで心臓超音波検査をオーダーいたします。超音波で心臓の中身を見ることができます。超音波とは人の耳には聞こえない高い周波数の音のことを言います。超音波検査の仕組みは、超音波を海中に向かって発射し、魚がどれくらいの深さにどれぐらいいるかを調べる漁船の魚群探知機やイルカのエコーロケーションと同じようなものです。 検査に用いる超音波の周波数は2~20メガヘルツ程度で、人の体に害をもたらさない安全なものです。胸の上に当てた小さな機械(プローブ)から超音波を出し、心臓の筋肉 や弁に当たってはね返ってきた超音波を受信し、それを画像にすることで心臓の中の様子を知ることができます。循環器医師にとっては強力な助っ人です。今なら、検査したらすぐに結果が上がってきますが、当時は結果が出るのは1週間後です。


とりあえず、Mさんには、あまり動き回らないようにお話ししてお帰りいただきました。心不全ではないかと疑いました。高血圧から心不全が生じることはよくあるからです。最近でこそ血圧は正常ですが、40歳ぐらいから80歳ぐらいまで高血圧があったわけですから、そのつけが回ってきたのかもしれません。心不全はある日突然起こります。ちょうどコップに一滴、一滴と落ちていた水がコップいっぱいとなり、あるとき急にコップからあふれ出る瞬間です。コップに水が溜まっている間は外から見ても正常ですが、時限爆弾のように少しずつ導火線の引火が近づき、あるときに爆発するようなものです。









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