北風ブログー812
2024/8/9更新
病気―50
心エコーのデータが出てきました。LVEF 60%, LVDd 50mm, LV wall thickness 12mm, A and M valve, np, TR 4degreeです。多分、医学関係者以外は何のことかわからないと思います。たぶん、医師でも循環器が専門でないとわからない先生が多いのではないでしょうか?
ご説明いたします。まず、LVは左室(left ventricle)です。EFは駆出分画(ejection fraction)です。LVEFとなると、それは左室駆出分画の意味となり、左室の収縮性を示します。左室に入ってきた血液量のうちどれぐらい左室から拍出することができるかということです。つまり、左室に100mLの血液が充満しており次の収縮で50mL血液を心臓の外に拍出できればLVEFは50%となります。Mさんの場合、LVEFは60%ですから心臓の収縮性が保たれています。 LV wall thicknessは左室壁厚です。心臓というのは筋肉の塊で、袋状になっております。その左室の壁の部厚さで10mm以下が正常です。心臓が大きい患者さんは「よく心肥大と言われています」と言われますが、実は心臓肥大は心臓の壁が部厚いことを指し、心臓の見た目が大きいのは心臓拡大と言います。心臓拡大は、心臓の内腔が大きくなることで、内腔の直径で示すことが多いです。内腔の直径は、左室拡張末期径(LVDd, left ventricular diastolic dimension)と言い、50mm以下が正常です。MさんのLVDdは50mmですから、ギリギリ正常ですよね。
A and M valve,npとはどういうことでしょうか? A valve (aortic valve), M valve(mitral valve)は、おのおの大動脈弁、僧帽弁です。これに異常があると逆流や狭窄が生じますが、np (not particular, 特に問題なし)とありますから、大動脈弁と僧帽弁は問題なしということです。ここまでまとめますと、Mさんは心臓が少し分厚いですが、心臓の動きもいいし、心拡大もないので一見大丈夫なように見えます。では、なぜMさんは心不全になっているのでしょうか?
キーワードは、TR 4 degreeです。TRとはtricuspid valve regurgitation (三尖弁逆流)で4 degreeとは4度ということです。三尖弁がきっちりと閉まっておらず逆流しており、その程度が1-4と分類したときに最も逆流度が高いことを示します。心臓弁膜症は、昔はリウマチ熱で起こることが多かったのですが、今は動脈硬化が原因なことが多いのです。特に、大動脈弁は動脈硬化の影響を受けます。これに対して、三尖弁は、心臓が大きくなり弁が離れてしまって閉まらなくなることが多いのです。
でも、だいたい三尖弁とはどこにあるのでしょうか?。
この図のように向かって右が左心、左が右心です。右心は上の方に右心房、下の方に右心室があり、その間に三尖弁があるのです。三尖弁逆流というのが、Mさんの心不全の病態を形成しているのです。これについて、次回さらに詳しくご説明いたします