北風ブログー814

2024/8/23更新
病気―52
このMさん、最近定義された「左室駆出性の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)、ヘフペフ」であるということがわかりますが、当時はまだヘフペフという概念がありません。私は、心臓の収縮性が維持されている三尖弁逆流症が強い心不全と判断して、治療を開始します。主な病態は、心臓弁膜症と考えたわけです。その判断は間違ってはいないのですが、その心臓弁膜症の原因がヘフペフだったということなのです。
三尖弁逆流は、体の中の水分が多いと生じてくる病態であることが知られています。ちなみに最近増えている以前のTさんのような大動脈弁狭窄症は動脈硬化や糖尿病が原因ですが、三尖弁逆流は多くは二次性で、右心房・右心室の拡大により生じることが多いのです。ですので、三尖弁逆流症は、先天的に弁自体に異常があるとき以外は手術をしません。体の中の体液を減らす治療を行います。
ですので、Mさんには利尿薬を服用していただきます。心臓の中の弁がきっちり閉まらず血液の流れが逆流するということは、血管が高速道路だとすると、車の台数が多くて渋滞していると考えられます。利尿薬で体の中の体液量を減少させて、高速道路で言えば、高速道路を走る車の台数を減らして血管や心臓の中をスムーズに血液が順行性に流れるようにいたします。
Mさんの場合は、高血圧もありましたから、これまで通り降圧利尿薬を服用いただきましたが、さらに利尿効果を高めるためにK(カリウム)保持性利尿薬であるスピロノラクトンという薬剤を追加しました。実は通常の降圧利尿薬は血中カリウムの値が低下しますので、カリウム製剤を同時に投与することがおおく、このMさんも頻回に血中カリウム値を測定して、その値が下がってくればカリウム製剤を症状に応じて服用いただいていました。
今回、スピロノラクトンを追加しましたので、カリウム製剤を中止といたしました。カリウム値というのは、生命に強く影響いたします。通常は3.5~5.0mEq/Lですが、この幅より高くても低くても不整脈や刺激伝導系に異常を起こして、心臓が止まってしまうことがよくあるのです。
ですので、このMさんの場合もとても注意深く、毎回の診察ごとに血中カリウム値を計測して、薬の量を微調整するのです。その甲斐があってこのMさん、メキメキと心不全状態が良くなっていきました。それは、私の医者としての能力を超えた大きな理由があったのです!